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2012年4月 4日 (水)

[考察] 「まどか☆マギカ」と「リリカル☆なのは」──戦闘系魔法少女論

 私は現在、テレビ東京で再放送中の「魔法少女リリカル☆なのはStrikerS」を視聴しています。私が「なのは」シリーズを視聴するのはこれが始めてなのですが、これがまた結構面白い。面白いのですが……これは魔法少女の面白さじゃないよなあという違和感も同時に抱いてしまいました。そのぐらい、「StrikerS」は魔法少女としてみるには違和感がある。

 その違和感とは何か。

 それは主人公のなのはが19歳で、もう少女とは呼べない年齢に……ゲフンゲフン、いや関係ないことはおいといて。
 「なのは」の違和感を考えるために、私はもう一つの魔法少女ものを思い出してみました。昨年放送した「魔法少女まどか☆マギカ」は、魔法少女ものとは思えないほど予測の付かない展開とハードなストーリーで話題をさらいましたが、今魔法少女ものを考えるならば、「まどか☆マギカ」は避けて通れないでしょう。
 そこでふと疑問に思ったことがあります。「まどか☆マギカ」と「リリカル☆なのは」では、どちらが魔法少女としてより異質なのでしょうか。

 私が「StrikerS」を見たときに最初に違和感を覚えたのは、スバルたちが実力を上げるために訓練をするシーンです。
 私も長いことアニメを見ていますが、もちろん魔法少女ものを全て見ているわけではありません。しかし、それでも戦闘系魔法少女もののアニメで、ヒロインたちが魔法の実力を上げるために恒常的に魔法の特訓をする作品を見るのはこれが初めてでした。
 もちろん、サブキャラの1エピソードレベルでの話ならあります。例えば「美少女戦士セーラームーン」シリーズでは、木野まことが特訓をするエピソードがあったはずです。しかしながら、主役である月野うさぎが自分の実力不足を感じて、魔法(というか技)の特訓をするような話はありませんでした。

 もともと魔法少女ものの作品では、主人公の女の子は魔法が使えるのが当たり前でした。「魔法使いサリー」で魔法の世界の王女様であるサリーが魔法界からやってきたのは、魔法を習得するためではありませんでした。サリーはあくまで日常を経験することで、魔法を使う正しい心構えを学ぶために人間界にやってくるのです。また「秘密のアッコちゃん」でアッコが変身魔法を身につけるために、魔法の勉強をする必要はありませんでした。アッコちゃんは魔法のコンパクトを受け取ることで、その日から変身魔法を使えるようになり、日常の中でそれを活かしていくようになるのです。
 つまりこれは何かと言うと、女の子にとって魔法とは、夢と希望をかなえるためのものであり、そのために日常を犠牲にするものではないということなのです。アッコちゃんもサリーちゃんも、そして後続の多くの魔法少女たちも、魔法は日常で発生したトラブルを解決するために使うものなのです。魔法界から魔法使いがわざわざやってくる一番の理由は、日常の中で暮らすことで魔法の正しい使い方を身に着けることであり、また魔法を与えられた少女たちが私利私欲で魔法を使うと魔法を取り上げられる設定もまた、魔法とは日常の中で正しい心構えをもって使うものだからなのです。

 そして戦闘美少女系魔法少女も「魔法少女もの」の系譜を受け継いでいる以上、魔法で日常を犠牲にすることはしません。女の子は日常を謳歌しながら、日常を破壊する悪い魔法使いが現われたときに、正しい魔法をつかって悪を倒していくのです。
 「美少女戦士セーラームーン」は美少女戦隊ものの先駆けですが、魔法少女系に分類されることがあるのはこの戦闘美少女系魔法少女モノのフォーマットに極めて忠実──というよりむしろ元祖──だからです。うさぎたちはセーラー戦士の使命に目覚めてからも日常を謳歌し、ダークキングダムやブラックムーンといった悪の組織の幹部が日常を破壊するところに出くわすと、それを止めるために変身して相手を倒すのです。

 つまり悪役が魔法の間違った使い方をしているところを、より魔法を正しく使っていくことで正していくのが魔法少女の戦いなのです。

 だから、魔法少女の成長は「精神論」にならざるを得ません。魔法少女がより強い力を手に入れるということは、より正しい魔法の使い方に目覚めると言う意味なのです。「美少女戦士セーラームーンS」で、はるかとみちるが世界を救うために、土萌ほたるを倒すと主張したとき、うさぎはそんなの絶対にダメとしか主張できませんでした。うさぎにとって同じ仲間であるセーラーサターンことほたるを倒すのは、間違ったことなのですが、それに代わる代案を出せませんでした。しかしうさぎは自分の力不足を感じてより強くなるために戦士の特訓をする──なんて展開はまったくなく、最後まではるかやみちるの態度を「間違ってる」と主張しとおすことしかできませんでした。しかし最後の最後まで正しい主張を通すことで、最後は聖杯の真の力に目覚めて、ほたるを助けることに成功するのです。

 それを踏まえてみると、「まどか☆マギカ」は戦闘美少女系魔法少女のフォーマットに極めて忠実であることが分かります。この作品における最大のトリックは「この世界における真の奇跡はキュゥべえとの契約のときに叶えられる願いだけであり、魔法少女としての魔法は希望を代償にして絶望を取り込む等価交換の法則に基づくものにすぎない」という作品の基本設定そのものにあります。代償を必要とするニセモノの魔法を「夢と希望を叶える」魔法のようにミスリーディングしていたからこそ、予想も付かない展開を演出することができたのです。
 この世界の魔法には夢と希望を叶えるご都合主義は働かない。だから巴マミはちょっとの油断であっけなく殺されるし、キュゥべえとの契約で間違えた願いを叶えてしまったさやか、杏子、ほむらの三人は、どこまで行っても救われません。まどかだけがそんな魔法少女の運命を知って、「そんなの絶対おかしいよ」と最後まで叫び続けることで正しい願い事にたどりつき、キュゥべえとの契約で叶えることで魔法少女たちを悲劇的な運命から救うことに成功するのです。まどかがキュゥべえと最後の方になるまで契約しなかったのは、この世界でまどかだけが最初から正しい願い事が叶う資質を最初からもっており、まどかだけが正しい願い事を実現できる存在からです。
 (巴マミの願い事「生きたい」が正しい願い事かどうかは作中描写されていませんので除きましたが、10話のマミの台詞「魔法少女が魔女になるのなら、みんな死ぬしかないじゃない」が本心だったとすると、「魔法少女になっても[=どんな存在になっても]生きたい」という願い事それ自体が間違いだったことになります)

 一方「リリカル☆なのはStrikerS」の方では、スバルたちは魔法の実力を上げるために、恒常的に魔法の訓練をしています。これは何を意味してるのかというと、この世界の魔法には「習熟」の概念があるということです。私たちの世界に科学技術があるのと同じレベルで魔法技術が存在しているため、より上手く魔法を身につけたものがより強い魔法を使えるようになる。
 だから、「なのは」世界では善人であろうが悪人であろうが、より魔法に長けたものが強いという構図になる。これは魔法少女というより、SFファンタジー系のサイキックバトルの世界観に近い。スバルたち機動六課の戦いは魔法少女の戦いというより、サイキックバトルと言った方が的確なのです。

 もうひとつ、「リリカル☆なのはStrikerS」に感じた違和感があります。この作品が描いている戦いが、個人戦でもチーム戦でもなく、組織戦であるということです。主人公のなのはたちは、親友のはやてがつくった機動六課という新設部署に身をおいて、そこで新人メンバーを育てながら事件の解決に当たっているのです。
 普通、戦闘系魔法少女の戦いでは、たいていが個人戦か複数の魔法少女が一緒に戦うチーム戦が限界であり、組織のバックアップを受けた戦闘を行うことはありません。もちろんお供のマスコットキャラを通じてその背後にある組織からの支援を受け取る程度の描写はありましたが、それはマスコットキャラの裁量の聞く範囲でしか行えないことになってます。考えてみればある意味当然で、組織に身をおくということは、その分女の子の日常から足を踏み外していることに繋がるからです。だから「セーラームーン」でも、敵がどれほど巨大な組織であっても、うさぎたちは組織に身をおかず日常を維持しながら戦っているのです。
 しかし「StrikerS」では、なのはたちは機動六課に在籍して組織のバックアップを受けながら戦っています。しかも機動六課という組織を作るために、なのはたちは自分の魔導士としてのランクを制限しているのです。これは「なのは」の世界に、個々人が自分の実力を十分に発揮して戦うよりも、組織のバックアップを受けて役割分担しながら戦った方が、より確実に事件に対処できるという世界観が存在するということを意味します。
 これをどう捕らえるかは視聴者の自由ですし、人によってはよりリアルな世界観だと評価する人もいるでしょう。しかし、魔法が夢と希望をかなえるものであるという通常の魔法少女の世界観からみると、これがかなり異質な表現であることが分かります。

 もちろん「StrikerS」だけを見て「なのは」を評価するのがアンフェアであることは理解してますし、私が見ていない「無印」や「A's」ではより通常の魔法少女ものに近いフォーマットになっているだろうことは、想像がつきます。しかし、「StrikerS」のような続編が成立すると言うことは「無印」や「A's」の段階で既に、上記のような世界観──魔法は奇跡ではなく技術であり、個人の力より組織の力のほうが確実に強い──が成り立つ余地が存在していることになると思うのです。

 おそらくこの作品の方向性の違いは、それぞれの作品の構成と脚本を担当した虚淵玄と都築真紀の作品に対するスタンスの違いによるものと思います。
 虚淵玄は魔法少女ものの本質である魔法による夢と希望を「ご都合主義」と喝破した上で、ご都合主義が書けない自分が「魔法少女もの」を書くにはどうしたらいいかを考えて、「まどか」の世界にご都合主義が生まれるまでの経緯を描くことにしたとインタビュー等に述べています。その目的はあくまで「魔法少女もの」を書くことですから、予測が付かないダークなストーリーといった表向きの意外性を取り除いていくと、そのフォーマットは実は意外なほど魔法少女ものに忠実になっています。
 都築真紀は、魔法少女が女の子の夢や友情を語るものと理解していたものの、もともと「トライアングルハート」シリーズのスピンオフ作品である「なのは」をそのまま映像化してもパロディ作品にしかならないということで、思い切った基本構造の変更をおこなったと語っています。その結果派手なバトルシーンとそれを成立させる世界観が取り入れられ、「なのは」シリーズは魔法少女ものの皮を被ったバトルアクションものとなってしまいました。

 最後に「まどか☆マギカ」と「リリカル☆なのは」、どちらも面白い作品だから素直に楽しめばいいと言ったところで、本論を終わりにします。

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コメント

なのはは早い段階からその能力を時空管理局に見いだされてしまったせいで魔力を恰も職能の一種のようにみるようになってしまいました。彼女のもってるデバイスやら最初にそれを授けてくれたユーノ君にもそれを助長させる面があったと思います。

一方、まどかの場合、確かに魔法少女に既になってしまった少女たちは戦闘技術を自ら研鑽しているわけなんですけど、まどか自身は最後までならなかったために比較的外部から鳥瞰的に魔法世界を眺めることができてどう願うかがもっとも重要だとそこにポイント置かれているわけです

投稿: | 2012年4月 4日 (水) 00時49分

ニコニコ大百科の魔法少女の項が異様に詳しいのでそこを参照。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E9%AD%94%E6%B3%95%E5%B0%91%E5%A5%B3
図らずも、初代なのはの監督はまどかの監督である新房昭之。異色作を担当することになった氏も奇妙な縁があります。

投稿: | 2012年4月 4日 (水) 12時14分

[2012年4月 4日 (水) 00時49分]様

つまり、なのはは小学3年生の頃から将来の就職先をゲットしていたんですね。

まどかの方はほむらにみられるように自己研鑽を重ねてますが、あくまで使える魔法をより有意に使うという方向性で、新しい魔法を身につけるという描写は無かったように思います。


[2012年4月 4日 (水) 12時14分]様
読みました。なかなか細かく書いてますね。


読み直して思ったけど、「StrikerS」のなのはは年齢設定こそ未成年だけど、やってることは現実の酸いも甘いも噛み分けた大人の女性ですよね。
どおりで「StrikerS」が魔法少女ものにならないはずだわ。夢も希望も無い。
「StrikerS」が魔法少女モノとして成立するためには途中から登場したヴィヴィオという幼女がミッド式でもベルカ式デモない本当の魔法の使い手で、最後にその能力を発揮してご都合主義的に事件を解決するという展開を予測するんだけどどうだろうか?

投稿: JUN | 2012年4月 5日 (木) 23時44分

なのはSTSにおける魔法の夢と希望を叶える性質はずばりレアスキルにあるんじゃないかと

例えばsts25話にて高AMF下においてSLBexfbを撃てたのは、なのはが魔力収束というレアスキルを持っていて、且つ聖王ヴィヴィオとの戦いで多量の魔力が排出されたから(SLBは周囲の残留魔力を収束する)

つまり夢と希望がご都合主義というならなのはさんのデタラメっぷりがまさしく…

投稿: | 2012年5月29日 (火) 20時08分

[2012年5月29日 (火) 20時08分]様
返事遅れてしまいました。

再放送でまだ25話までいってないので詳しいことは分かりませんが、「StrikerS」にもご都合主義は確かに存在します。
しかしそのご都合主義は魔法少女モノの文脈で捕らえるものではなく、バトルアクションものの文脈で捕らえるべきものではないでしょうか。

なおバトルアクションものの世界観では、基本的に力を得るためにより犠牲を出したものの方が強い傾向があります。この犠牲とは日常の訓練とか、無茶な負担とか日常の人間関係とか、そういうことを含みますが、A's時代にまだ技術的に未完成だったカートリッジを使用したというなのはのエピソードなんかはまさにその最たるものですね。

それだけでも魔法少女ものとバトルアクションものの世界観は両立しないはずなんですが……それをここまで刷り合わせている「なのは」シリーズは実は凄い作品のような気がしてきた。

投稿: JUN | 2012年6月10日 (日) 15時14分

突然失礼致します。特にどうというコメントでは無いので気にしないで下さいませ。

「まどか☆マギカ」の考察は感銘を受けました。実にその通りだと私も思います。
劇場版が出る様ですが、「魔法」を其々の人物の存在と同等に扱い向き合うスタンスは変わらないと予想してます。
シナリオが最後には尾を引くものになるのか、より綺麗な形に締めくくるのかは観ないと判りませんが…

「リリカルなのは」への考察は「StrikerS」だけを観てそこまで作品全体の本質を想定した事が凄いと思います。
検証相手の選び方が見事で的を射ていると感じました。
確かに「リリカルなのは」の「魔法」には夢も希望も無いと思います。
レアスキルに関してはそれ自体が今後「まどか☆マギカ等の魔法少女的な魔法」に近いモノとして出る余地は有るので、そうなればそれはそれでどうなるのか楽しみです。二次創作での実現だけかもしれませんが。
ただ、私が一つだけ言えるかもしれない事は『「リリカルなのは」の夢と希望は今のところは登場人物の”魔法”ではなく”心”に依っている』のではないかと言う事です。
もしそうならばこの作品は、『夢や希望を叶えるのは「魔法」ではなく生きているその人本人』だということを「魔法少女」の立場から伝えている事になりそうです。
死者が出ない方向性が今の所決まっている事も根拠ではあるのですが…
何よりも主人公高町なのはと愛機レイジングハートの生涯を通して描かれているテーマではないかと考えています。

個人的には、いつか「リリカルなのは」が終幕を降ろした時に”心こそが魔法だったんだ”、と全力全開でそれこそ心に刻めたら良いな なんて夢見たりしています。

「リリカルなのは」を本当に描くのは難しいと思います。ともすれば陳腐になってもおかしくないので。
「魔法少女」でやるテーマじゃないかもしれない
でも、それこそは製作者側の「人生」なのかもしれない。
流石に言い過ぎかな?全部じゃなくても一部だったら良いな。

少なくとも、他の魔法少女は登場人物が希望を叶える作品であると私は捉えるいるのに対し
「リリカルなのは」には私が希望を与えられている様に感じています。
「強く生きよう」みたいな?
でもイメージするのが独りよがりな「強さ」ではないのがバトルアクション作品でもあるのに不思議です。
JUNさんがその理由の一部を暴いてくれていますね。
完全に納得して「リリカルなのは」という作品を観ている訳じゃないんだ、ただ何かそこに凄いモノがある様に思えて、観ていると心地が良いんです。

…「魔法戦記」。アレの本質が如何なるモノなのか。怖い気もしますが圧倒的に楽しみでもあります。どの様な形で描き切るのか、始まりに過ぎないのか…

一ファンからの駄文失礼しました。
理性を以て作品に対した記事に惹かれました、良い記事をありがとう御座います。
JUNさんの御健勝を願います。 それでは

投稿: | 2012年6月27日 (水) 15時00分

なのはの場合、3期と2期で差があり過ぎるので…

1期が個人vs個人、2期が数人vs数人だったのが、3期で突然世界観が移行して、組織vs組織になったんですよね…

更にいうと、アニメの元となったゲームは、本当に昔ながらの魔法少女物みたいな(呪文とか唱えたりするような)代物で…

色々ジャンル変えて模索してる内に、人気が出ちゃったって感じみたいです

投稿: | 2014年3月 5日 (水) 16時27分

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